Al合金 ECAPについて
(1) Al-Cr合金について
Al合金は、近年の環境問題の影響を受け軽量な構造材料として注目されている。Al合金における添加元素は、Al結晶格子中に固溶し易い元素、固溶し難い元素がある。それらはヒューム・ロザリーの法則によって示され、1)大きさの因子、2)負の原子価の効果、3)相対的原子価の効果が固溶体を形成する要因となっている。Al-Cr合金において、Crは最大固溶限が0.4%である。それぞれの原子半径を比較するとAlの原子半径:0.143 (nm)、Crの原子半径:0.125 (nm)であり、Al結晶格子中にCrが置換固溶することによって結晶格子が収縮していると考えられる。
本研究では、Al-Cr合金の力学的特性の変化と添加量の関係を明らかにすることを目的とした。合金はアーク溶解と高周波誘導溶解により合成した。
SEM-EDXを用いて元素分析を行った結果(表1、表2参照)、Al99.7Cr0.3ではAl単相組織であり、Al相にCrが固溶していることが確認された。Al99.3Cr0.7は、Al相と金属間化合物相の2相からなり、Al相はCrの固溶量がAl99.7Cr0.3に比べ多いことがわかった。また、金属間化合物はAlとCrの原子数比からAl7Crであると考えられる。引張試験結果(図2参照)より、Crの添加量が0 %~固溶限付近までは引張強さが添加量に比例して上昇しているのに対し、固溶限を超えると強度の上昇が鈍化していることがわかる。これより、Al-Cr合金の強度上昇はAl相へのCrの固溶量に影響し、金属間化合物Al7Crは強度上昇に寄与しないことがわかった。
(2) ECAP加工を施したAl0.99Cr0.01の力学的特性の変化及びEBSD測定
ECAP(Equal Channel Angular Pressing)加工(図1参照)に代表される強塑性加工では、様々な合金を効率よく結晶粒微細化し力学的特性を劇的に変化させることが期待される。
本研究ではAlへの添加元素として加工後のAlに対する延性を著しく変化させるCoに注目した。AlにCoを1at%添加したAl0.99Co0.01を用いて、ECAP加工時における金属間化合物の影響を調査した。
Al0.99Co0.01は粗大な初晶Co2Al9及びAl- Co2Al9粒子による共晶組織を形成した。ECAP加工を施すことで初晶Co2Al9は微細化され、押し出し方向に伸長した組織(図2参照)が得られる。Al0.99Co0.01はPass回数が増えるにつれ、初期の結晶粒が細かく分断されていき、数100μmの初期結晶粒は4Pass時に1~2 μm程度に微細化される。IPFマップより、強固で粗大な金属間化合物が転位密度の上昇及び結晶粒微細化を促進させていることがわかった。引張試験結果より(図4参照)、Al0.99Co0.01はECAP加工を4回行うことによって引張強さが1.8倍(87.68 MPa→165.54 MPa)に達する。伸びはECAP加工4回加工後に約40%増加する。ECAP加工過程でCo2Al9によって母相の結晶粒微細化が促進されたことにより高強度化し、破壊の起点となる粗大なCo2Al9が細分化された事で伸びが増加したと考えられる。